幕末の雪

「今日は皆に紹介したい者がいるんだ」


近藤は隊士の前だけあって、難しそうな顔をしながら落ち着いた声で言う。


視線を合わせ陽に促すと、陽はすくっと立ち上がって隊士達の前に歩いてきた。


陽が向き直ると、さっきよりも更に多くの視線が陽へと向けられていた。


“女…?”
“髪の色が赤い”
“男装に刀?”
“男ではないよな”


視線から言葉が全て伝わってくる。


阿保のように、丸出しな隊士の考えに陽は内心呆れた。


(大丈夫か、これ…)


考えていることが丸わかりな相手ほど、勝ちやすい相手はいない。


戦いごとでは万物共通とも言えるのではないかというほど、特に剣においては初歩的なものだった。


新撰組隊士の命に興味はないが、今日から隊士として身を置く組であるわけだし、多少気にもかかる。


とは言っても陽は例え隊士が死んでも、何も感じない。


刀のためだけに入隊する陽にとって、人を斬ることが出来る以外、この組にいる利点がないからだ。


陽も刀を返してもらえばここを出る気であり、必要以上に仲良くならないように今も一線引くようにしている。


近藤が陽を紹介する最中も、誰とも目を合わせず畏怖なる雰囲気を放ちなが向かいの壁を見つめるだけだった。