幕末の雪

陽にとって最も大きな過去の出来事が頭の中に流れてくる。


血に染まった雪。


倒れる無数の屍(しかばね)の中に横たわる、最愛の両親。


自らの手に握られた、人の命を奪った刀。


「……」


刀を見たまま暫く過去を思い出す。


忘れないように……。決して、あの日を思い出すことが辛くならないように。


目を背けない。


(刀が戻るまでは…ここでーーー)


鞘へ刀身を戻しながら、陽はその銀に輝く刃が見えなくなるまでそれを見ていた。


光の宿らない、真っ暗な瞳で……。


ーーーー


その日の夜は、改めて幹部に紹介をするということで陽は幹部が夕餉を食べる広間にいた。


幹部は向き合うようにお膳を二列に並べる。陽はそれを避けるように部屋の隅にお膳を置いた。


「なんかちょっと変な感じだよな」


俯き正座した陽を見て、藤堂は隣にいる原田と永倉にこぼした。


「だな。しかもあんなとこに置いて、毛嫌いされてるのが丸わかりだぜ」


「けどよ、さすがにアイツも自分から親しくっつーのは無理なんじゃねえか?」


原田は陽をあまり快く思っていないようだ。永倉はそれを含めて中立の立場から陽を見て言った。


どちらも自分の立場と出会った経緯から、そう簡単に仲良くできるものではない。