幕末の雪

腰の帯に二本の刀を差して、その様は浪人かのようだったか、どことなく強い雰囲気が漂っていた。


陽は小さく首を振る。


『落ち着かないだけだよ…』


そう言って陽は刀を鞘からほんの少しだけ抜いて、刃を見つめた。


夜なのに月明かりに反射して、キラリと輝く。


まるで使ったことがないような真新しい刀は鏡のように後ろに立つ男を映した。


その目は斬る事に飢えた悪魔のようだった。


『なあ、陽よ…』


ーーーー


“仇を取りたいんだろ。それなら…刀を取れ。敵を殺せ”


あの声が今も鮮明に思い出される。


若くして威圧的な、だがどこかぬらりくらりとした感情の浅い低い声。


刀に映る瞳は自分のものだったが、その男と同じ殺しに飢えた…悪魔のようで、鬼のような目だった。


その目を見て暫く忘れていたものを思いだす。


(そうだ。私は仇を取るために、少しでも多く殺さなければ……)


新撰組に捕まったことから不本意な狂いはあったが、何処にいようとそれだけは譲れないことだ。


(どうしてそれを私はーーー)


ただ人を斬る事を続けていたせいで、本当の目的を見失いかけていた。


忘れてはいけない。大切なことを。