幕末の雪

「ああ……」


「それから、正直に言うと……いや何でもない」


お前を信用し切っていない。


そんな言葉を口にしようとした時、ふと頭に悪循環が予想できた。


現状況からしてそんな事は陽もはっきりとわかっている。ついさっきも、しっかりと監視されていたわけであるし。


だがそれを土方の口から言ってしまえば、そのせいで陽が新撰組に尽力してくれるまでにかかる期間が伸びる気がしたのだ。


自分の判断から口を噤(つぐ)んだ土方だったか、それは結果的に正しい選択となる。


少なからず、山崎や斎藤の妙な他人への優しさは陽の心にも影響を与えようとしていた。


同じ組内に違った思考の持ち主がおり、信用される側と信用しない側の存在はきっと陽の決意を揺るがせる。


それどころか心を開くことも決してないだろう。


「お前用の羽織が届くまでは、巡察はなしだ。飯は幹部と食え、それから…刀だが、しばらくは預からせてもらう」


「……」


部屋の中を沈黙が襲う。


陽は一点を無心に見つめるように、動かなかった。


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部屋に戻り、陽は土方に支給された刀を鞘から抜いた。