陽は気づいていないふりをする事に決め、平然を装った。


それから数十分後に、再び土方が陽を呼びに来るまで監視は続いた。


土方の部屋は他の部屋に比べて障子が少し立派な装飾を施されており、廊下を進めば辿り着けるその部屋をもちろん覚えているわけだが、陽はわざと忘れたかのように土方の後ろを付いて歩く。


障子が開かれるなり、そっと視線をずらして見たが、部屋には幹部隊士どころか一人もいなかった。


土方と二人きりだと知り、陽は顔をしかめる。


強引さと言い、威圧的な態度と言い、怒る姿は父と重なるものはあったが、陽には少し土方を苦手に思うところがあった。


しかも実際に部屋の中で二人きりになるのは、ほとんど初めてに等しい。


鋭いくせにそういった無害な相手の心情に疎い土方は、陽の動きがぎこちないことにも全く気がつかなかった。


真正面から向き合い正座をする二人。


「お前の隊がさっき決まった。…一番隊だ。沖田総司って奴に後で挨拶いっとけ」


(つっても挨拶する内容なんて、ねえだろうがな)


陽は何と無くだが、沖田があの夜対峙した人物であることを想像していた。


随分と綺麗な顔立ちなのに、刀の腕が随分とある。というのが陽の沖田に対する印象だ。


それから、笑っている、というのも特徴の一つとして捉えている。


あの夜に確かに笑いながら刀を振るっていた。と、何度も陽は沖田の姿を暇な時(監視中のふとした時)に思い出していた。


(あの人以外に、初めて笑って闘う人を見た…)