幕末の雪

「どうしてだ?何故私を……」


「斎藤。これはどういう事だ」


耐えきれず震えるのを抑えて絞り出した声は、低く威圧的な声に遮られた。


少女、陽はその人物を見てもいたって落ち着いていたが、斎藤は不味そうな顔をしている。


自分で勝手に陽を連れ出したのだから、まさかそれがばれたのが副長である土方ともなると、斎藤の責任は免れない。


そう。目の前にいる土方に陽を勝手に連れ出したことがバレたのだ。


斎藤の頬に、たらりと汗が流れ落ちる。


土方は二人の様子を、真っ直ぐに睨むように見る。


きっと他の隊士、沖田や藤堂ならば事情を話せば必ず黙秘していてくれただろう。


土方自体も、稽古のない時間帯に竹刀のぶつかる音を聞き奇妙に思い来てみれば監視されているはずの少女と、斎藤がいたのだから驚きと憤りは当然だ。


しかも自分に忠実に従い尊敬の眼差しを向ける斎藤が裏切るとは、まさかとも思ってはいなかった。


「申し訳ありません……」


深く頭を下げて斎藤は謝罪した。


その様子を陽は無表情のまま見つめていた。


「どういう事だと聞いているんだ」


「……それは」