幕末の雪

首元に竹刀の先を突きつけられているのが、まさか自分の方だとは思わなかったように少女はしばらく動けずにいた。


確かにあの状態からの斎藤の反撃は無理なはず。じゃあ一体……?


「俺の勝ちだな」


「待て、お前今……」


どうしてお前が竹刀を握っている。確実に自分の方が実力があると思っていた少女には、事実が受け入れ難かった。


それ以前に何が起きたか…。気づいた時には手から竹刀が転がり落ち、首元に剣先が据えられていた。


「俺にはこの勝負に二つの確信があった。一つはこの勝負は俺の勝ちだということ」


「………」


「もう一つは、真剣ならば俺が負けていたということだ」


斎藤は無闇に戦いを挑んだわけではなかった。


一度しか通用しないかもしれないが、確実に勝てるという確信があったのだ。


少女には一つだけ覆せない絶対的な弱点がある。


それは“非力さ”だ。


今までその非力さを補ってこられたのは、圧倒的な速さがあった事と“真剣だった”事に助けられていたからだ。


だが今回はそのうち一つが欠ける勝負だった。


真剣というのは刃が付いているため、当てれば力を入れずとも切る事も斬る事も出来る。


それに比べ竹刀は切れはしないし、今回はただの手合わせで目的は殺すことではない。


少女自体もそれをわかっており、序盤は力を込めることに重点を置き両手で構えていた。