幕末の雪

闘争心が感じられないとは言っても、それは表面上の話であり、相手に勝つことだけを考える二人の竹刀がぶつかる音は次第に大きくなって行く。


(この速さではまだついて来られるか……)


少女は左手を竹刀から離し、片手だけで構えた。


今の速さでも丁度避けられる程度だったのに、これより更に速くなるのかと更に底知れぬ少女の力に驚かされる。


それより驚くべきは、さっきまで両手を竹刀から離す事なくあの速さで移動していたということだ。


片手構えに変えた。…つまり、少女はこれで片を付けしようとしている。


だが斎藤の狙い所は正(まさ)しく“これ”だった。


少女はぐっと踏み込み、先ほどとは比べ物にならないほどの速さで地を蹴り出した。


吹き抜ける風の如く一瞬で間合いは詰まり、斎藤が構えるよりも先に少女は眼前に迫っていた。


「……っ」


間一髪でそれを避け、突きを繰り出し反撃するが軽やかな身のこなしで簡単に避けられる。


数回それを繰り返すうちに少女と斎藤の竹刀を振る速度の違いから、ズレが生じた。


そのズレを見逃さず、すかさず打ち込んだのは少女の方だった。


斎藤はちょうど竹刀を振り下ろしたところで、今からは構える事も避ける事もできるはずがない。


パシッ……!


手先を竹刀で打たれた少女は、自らの竹刀を痛みで手離した。


カラン、カラン……。


地面に竹刀が転がる音以外は静寂が場を包み込むような、無の静けさで、数秒後少女が息を飲む音が響いた。