幕末の雪

「行くぞ……!」


斎藤が踏み出したのを合図に、二人勝負が始まった。


まずは手始めに互いに刀を何度か交わらせる。斎藤も少女も本気ではなかったが、互いに一瞬で確信した。


“この勝負、自分の勝ちだ。”


「……」


「……」


無愛想で無表情な二人の戦いはあまりに静寂で、闘争心は少しも感じられない。


竹刀が弾かれた勢いで互いに一度離れ、拳に力を込め直した。


先に本領を発揮したのは少女の方だ。あの時と同じ、目にも止まらぬ速さで闇の中を駆ける。


真っ黒な影が目の前を横切って、あまりの速さに気配が無数の場所から感じられる。


あの時沖田との対峙を見ていたが、実際に戦うとそれ以上に体感する速さはずっと速い。


真剣で命を懸けこの速さと向かい合っていた沖田は流石なものだ…。頭に浮かびかけて、雑念を消すように考えるのをやめた。


関係のないことを考えていて勝てるほど甘い相手ではない。


竹刀はどうであれ、真剣で人を斬ってきた数はきっと少女の方が多い。


だが何故なのか。見ていた時よりもずっと速く、対峙しているのは自分であるはずなのに……。


これまでないくらいに集中して竹刀の軌道を読むことができる。