幕末の雪

頭にくるような言葉にも、少女は自然と何も感じることがなく、ただ言葉をゆっくりと理解した。


刀が欲しくないのか?


勝ちさえすればそれだけで刀は返され、また元の人斬りに戻れる。


「わかった」


斎藤は竹刀を一本少女に渡した。


久しぶりに握る刀の感覚は真剣の重みとは違っていて、尚且つ更に懐かしさを覚えるものだった。


しっかりとその感触を確かめるように、ぎゅっと利き手である右手で握り締めた。


(竹刀に慣れていないのか…?)


「……」


ブン…!ブン…!


何度か角度を変えて竹刀を振るが、いづれも重々しく空気の切れる音が鳴る。


あの細い体でここまでの強さなのだから、大したものだ。


「やるぞ」


手合わせの経験はあるらしく、斎藤が構えてすぐに少女も構える。


「忘れていたが、お前が負けた時は……」


「必要ない」


自分の勝利を絶対的に確信しているらしく、斎藤の言葉を遮ると目尻を鋭く尖らせ目を合わせた。


真っ暗で月明かりに照らされて尚漆黒色をした瞳。


沖田と藤堂から話は聞いていたが、ゾッとするような恐怖の色も塗りつぶされた真っ暗な過去をも見えた気がした。


どうしてだ。いつもはただの真っ黒な瞳に過ぎないのに、刀を持った時だけその瞳は過去を映す。


だからこそどうしても新撰組に引き入れなければならない。……斎藤は、ぎゅっと左手に力を込めた。