幕末の雪

「ついてこい」


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斎藤はひと気の少ない廊下を進み、何処かへ向かっているようだった。


少女は後ろから斎藤の背中を見ながら一定の間隔を保ち、小さな歩幅でついていく。


刀を返してくれるのだろうか。そんな疑問もあったが、少女にとって一番気がかりになったのは違ったことだった。


「……私を部屋から出して良かったのか」


トス……。


少女の問いに斎藤は足を止め顔だけを振り返らせた。


「静かにしろ。これは俺の独自の判断だ…他の隊士にばれては困る」


「じゃあ、私が今逃げたらどうするつもりだ?」


再度質問をした少女の腕を引き、斎藤は無言で廊下を進んだ。


辿り着いたのは真っ暗だが広い空間のようで、壁に木刀や竹刀がかかっており道場らしいことに気づく。


刀がここにあるのだろうか……。


「逃げるならとっくに逃げている。そうだろう」


他の隊士に話し声を聞かれることを懸念していたらしく、ここに来て斎藤ははっきりとした声で話す。


言い当てられ頭に浮かんだのは刀の事だった。


きっとこいつは気づいている。さっきの言葉でそれは確信に変わったのだろうと、少女は察した。


「俺と手合わせ願う。もしお前が勝ったら、刀を返そう」


「お前独自の判断なんだろ……そんな事していいのか」


ふっ、と口から息が漏れる音を聞き、少女は斎藤が笑っていることに気づいた。


初めて見た斎藤の笑みは、まるであざ笑うかのようで目元は挑発を仕掛けていた。


「刀が欲しくないのか?」