幕末の雪

「断る」


そう一言感情を込めずに言い、少女は布団から体を起こした。


斎藤も少女の暗い瞳に合わせるように視線を上げる。


「言ったはずだ。現状を理解しろ、と」


「……」


「俺達はお前を殺す気は一つもない。このまま寝たきりでいれば体が弱るだけでお前は刀を握れなくなる」


元々人斬りの罪で捕まったはずが、なぜ刀を握れなくなることの心配に繋がるのか。


山崎の様に変わったやつばかりだと、少女は思った。


「刀を握りたいのなら新撰組に入れ。ここでは特別に人を斬る事が許されている」


刀を握る感覚も、大切な刀の感触も忘れかけていた少女の腕が電撃が走るような感覚で痺れた。


刀を握りたい。


(私は人を殺さないと……生きていけない)


布団の中でぎゅっと拳を握り締めた。それでも、刀を求め疼く感覚は抑えられない。


少女はわかっていたが、ついに口を開いた。


「私の刀は…無事か」


この事を言えば刀がどれだけ少女にとって大切かもばれてしまい利用されてしまうかもしれない。


だが大切な……家族との唯一の繋がりだけは、どうしても捨てきれなかった。