幕末の雪

「くっそぉ〜…総司にやられたんだよ…」


午前中の一番隊の稽古に顔を出した藤堂は、運悪く沖田に捕まり稽古の手伝いをさせられた。


初めは隊士達と試合してほしいとのことだったが、沖田の腹黒い表情からそれで終わらないことは確信していたため藤堂は隙を見計らって逃げたのだった。


しかしその行動が更に沖田を怒らせ、同時に沖田の虐め心を奮わせる結果に至る。


嫌でも同席する昼餉の後、沖田は藤堂を道場に強引に連れて行き満足のゆくまで叩きのめした。


藤堂の頭のこぶはその時にできたものだ。


「総司、またか……」


そろそろ沖田の隊から苦情でも来るのではないか…と斎藤はため息をつく。


何せそのような過酷な稽古を毎日受けているわけだから……。


黙々と箸を進める斎藤はあっという間に食べ終えた。


周りでは沖田がゆっくりと食べていたり、いつも通り三馬鹿がおかずを取り合っていたりというところだ。


「もう終わったのか?斎藤」


「ああ左之。俺は副長と監視を交代してくる」


既に少女への夕餉を運び終えている原田は、顔をしかめた。


特別意味はないのだが、明るい気質の原田にとっては無言のままの少女との空気に耐えきれず、夕餉を運んだ後はあまり機嫌が良くない。


真っ暗な廊下をしばらく進むと、明かり一つ灯っていない部屋の前に人影が一つ見えた。


外も随分と静かなため、足音でその人影は斎藤の方へ顔を向けた。


「斎藤か?」


「はい、副長。俺が半刻引き受けます」


「ああ。巡察後に悪いな」


暗くてあまり顔は見えていないのだが、声や何となくの背丈は確かに土方のものだ。