幕末の雪

少女を捕らえて以来辻斬りも死体を見つけることも減ったため、斎藤の羽織には血が着いていなかった。


部屋に戻り羽織を脱いだ斎藤は、丁寧にそれを畳み置いた後、夕餉へと向かった。


決して夕方ではないのだが、新撰組の夕餉は大体八時頃だ。


人によっては五時頃と八時頃で分かれるのだが、あの少女の夕餉は間の七時頃だった。


隊長格が食事をする広間へ入ると、既に大方の組長達が席についていた。


「土方さんは…」


「めずらしく自分から監視を買って出たんだ」


喜ばしそうに答えた永倉は、自分がちょうど監視の当番だったらしい。


それにしても珍しいな…と、斎藤は理由を追求しながら席についた。


周りからもわかりやすいように目を細め、顎に手を添える斎藤。誰もその理由は知らないし、わかるわけもない。


第一そんな事考える必要もないだろう。


「まあまあ一君。たまには清々しく食べようよ」


「だが……」


「せっかく土方さんがいないんだから、楽しくお話でもしてさ」


妙に機嫌のいい沖田を不思議に思いながらも、斎藤は土方の行動を追求することをやめた。


「では、いただく……。平助、どうしたんだ?」


さっきから仕切り無しに頭を撫でる藤堂が、やっと斎藤の目に入った。


歯を食いしばり唇を開けて、歯の間からしーっと息を吐きながら痛そうに顔を歪めている。