幕末の雪

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微妙なところで話を終えた藤堂は、すっきりとしない心境で自室へ戻った。


稽古にでも行こうか……そう考えたのだが、今は沖田の隊が稽古をしていることを思い出す。


(げっ……やめとこうかな。けどなんか、こう…もやもやっとすんだよな)


沖田が組長を務める一番隊の稽古は沖田がつけるのだが、それは新撰組に組織するどの隊の稽古よりも厳しく地獄のようなものだ。


その場に立ち入れば、きっと自分も関係ないのに火の粉をかぶることになる。


巻き添えは嫌だと思うたびに更に胸が悶々とし、何かで発散したい気が抑えられなくなって行く。


葛藤の末、結局竹刀を手に取った藤堂は重い足取りで道場へ向かった。


近づくにつれ活気良い声が聞こえてきて、むさ苦しい男の匂いも漂ってきた。


「おーっす」


「あ、平助。僕の稽古中に来るなんて珍しいね?」


沖田の開口一番に嫌味が飛び、藤堂は誤魔化すように笑顔を見せて沖田から離れるように隅へと移った。


「藤堂さん、おはようございます!」


「おう。おはよう」


隊士達に挨拶を返す藤堂の背中に、何かチクチクと視線が突き刺さる。


その正体は言わなくてもわかっている。


普段沖田の稽古時間に道場に行くことを避けながらも、他の隊の稽古時間は好んで道場に行くことを沖田自身が知っていたからだ。


さっきの嫌味も、それを知った上で言ったことを意味する。