幕末の雪

手を止め振り返った藤堂の顔は、呆れたような苦笑いみたいな薄い表情だった。


「だってそれを断ったから今こうなってんだろ」


普通隊長格の藤堂が炊事当番や洗い物をすることは滅多にないのに、当番制の隊士達よりも多い頻度で洗い物を毎日している理由が少女だ。


同じように昼は斎藤、夜は原田があれから毎日洗い物をしている。


監視の目が薄くなっては困るから、という理由で食事の時間が隊士達とずらされているのだ。


「山南さんもこればっかりは困ってたな。いっそのこと判断下しちまえばいいのによ」


確かにあの時少女の凛とした声に、同情に近い何かを覚えたのは確かだ。


だがあれから声を聞くことはもちろんなく、雑用まで押し付けられているのだから嫌気はさし心臓が苛立ちで悶々とする。


「判断って…?」


「わかんねえけどよ……。けど、どっちにしたって今のままじゃ一生経っても何も解決しやしねえ」


藤堂は洗い物を終え、部屋へと向かう。


「あれ?左之さん行かないの?」


石段に座ったままの原田を振り返り、藤堂は首を傾げた。


「近藤さんと土方さんに茶頼まれてたの忘れてた。小姓でもやってくれればいいのにな」


本人に聞くまでもなく無理なことはわかっている。


原田は重たそうに腰を持ち上げたのだった。