幕末の雪

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「よぉ」


「うわっ…左之さん!」


少女が眠る部屋の前の廊下をしばらく進んだ角を藤堂が曲がると、思わぬ声がかけられた。


お膳を音を立てて落としそうになった藤堂は、何とかガタガタと震えるお椀をお膳の上に留めた。


わざと不意をつくように話しかけたのは原田で、壁にピッタリと背中を寄りかからせ腕組みをしていた。


「…んだよいきなりー…」


身長差がかなりある二人では自然と原田が見下ろす形になるが、原田は藤堂を見下ろす時は必ず顎を上げるようにして流し目をする。


女から見れば色気が増して、目が合うだけで胸が締まるかもしれない。


しかし藤堂からするとそれは“見下ろす”じゃなく“見下す”で、挑発の対象だ。


「気に入ってんのか?」


「は?何がだよ」


「とぼけんなよ。あいつのことだよ」


「あいつって…。別にそんなんじゃねえよ」