幕末の雪

しかし心を開いてくれているわけでも、自分達を信用してくれているわけでもないのに少女は決して食事を残さなかった。


言葉は交わせないのに、藤堂はそれが嬉しかった。


美味しかった。と心の中では可愛らしくもそんな事を思っているのだろうか。


箸を置いた音を合図に少女を見ても表情はいつも通り、変わらず無表情。


そしてお膳の上の茶碗の中身も変わらず空っぽだった。それを見て、藤堂は嬉しさを隠しきれず口角をそっと上げ顔を緩めた。


少女は横目で藤堂の表情を見るなり、嫌そうに睨んだ。


「……私の何か可笑しいか」


「いや別に…」


これでも一週間以上は同じ事をしてきたのに、何故か今日は緊張がとけたように綻び笑顔を見せてしまった。


少女が笑顔を見せることはないが、結果的に初めて言葉を交わすことができまた顔に出てしまいそうになる。


(けど最初の会話がこれってな……)


自分と少女の立場を再確認した上で、藤堂は顔を引き締め立ち上がった。


「持ってくぞ」