幕末の雪

せめて刀があれば。


土方達は知る由もないが、少女が帯刀していた銀色の鞘の立派な刀は彼女にとってとても大切な物だった。


あれを置いて逃げることは出来ないが、捕まった日から一度も触っていないとなると不安になる。


(壊されてはいないよな……)


トストス……


廊下の木板を蹴る音が聞こえた。


誰かが近づいてきたらしく、それと同時に監視をする隊士も変わったようだ。


足音が遠ざかって行き、滅多に開くことのない障子が開いた。


「これ朝餉」


お膳を両手で持ちながら、器用に足で障子の木の部分を挟み開け閉めをして入ってきたのは藤堂だった。


朝から眠気の覚めるようなパッと開いた目をしているが、藤堂本人は眠そうに欠伸をかいた。


少女が寝る枕のすぐ横にお膳を置くと、気に障らないようにと部屋の隅へとずれた。


朝餉を持ってくるのは藤堂の役目で、どう対応すればいいかは大体心得ている。


おはようと言っても無視されるのは初めて持ってきた日にわかったし、心を許していない人に対してなのか食べているのを見られたくないのもわかった。