幕末の雪

今日という日まで、土方が部屋に不在の際に忍び込んでは発句集を読み漁り暗記してきた。


とうとうそれを詠み書いた本人をいじるための道具が揃ったことで、沖田は満悦そうだ。


「先日の句なんて最高傑作ですよ。“梅の花一輪咲いてもうめはうめ”って、…ぷっ、あははっ…!一輪咲いたら桜にでもなるんですかっ」


もう耐えられないとばかりに吹き出し、頭の中に書き込まれた他の句を考え更にお腹を抱え笑った。


「総司……」


屯所中に響くほどの笑い声を高らかと上げた沖田は、薄っすらと開いた目から土方の様子を見た。


「まあまあ土方さん抑えて抑えて。僕は最高に笑える句だって褒めてるんじゃないですか」


「褒めてねえだろそれ!てか何でその句も知ってんだ!!」


今までのどんな餌よりも釣れるな、と土方の怒りようから沖田は判断。


まさかこのネタでどちらかが死ぬまでイジられる事を、土方はまだ知る由もない。


「それより、僕土方さんに話があって来たんです。聞いてくださいよ」


そういえば脱線していたな……と土方は呟いた。が、


「話逸らすな!俺には発句の話の方が大切だ!」


「残念、弱みを握られた今は僕に従ってください」


「あ"…?」


「それに……僕の話の方が大切です。あの子を蔵に押し込めた事、反省の気があるなら少しでも聞いてもらえませんか?」


急に真面目な声色で言った沖田のせいで、怒る気も薄れてしまった。


だがそんなに大切な話なら、なぜ初めに発句集の事を持ち出した、と土方はため息をついた。