幕末の雪

人と関わることが全くなかった少女は、一人の人物と何十分も同じ空間にいることに慣れていない。


新鮮な以上に落ち着けない。


何人も来るよりは山崎一人の方がいいと考えたのだろう。


それからは静かに時が過ぎて行った。


ーーーー


約束の時、月が一番上へと登った。


夜の巡察に行った隊も戻ってきたらしく遠くから声が聞こえた。


「言った通り待ったからな。副長を呼んでくる」


返事は返ってこない。


天井を見つめる少女は、簡単に距離を縮めてはくれないようだ。


同時刻、土方はというと自室にいた。


机に向かい書類を捌(さば)きながら、後ろにいる人物にどうしても気が散る。


土方の背中を刺すような視線で見ている沖田は、喋りかけようともせずそれを続けた。


「おい総司……用があるなら口で言え」


「気づいてたんですか?てっきり土方さん鈍いから今殺っちゃっても気づかなさそうとか思ってたんですけど」


沖田はニッコリと笑顔を浮かべ、親指で首を切る真似をして見せる。


自分のせいでずっと気が散っていたことを知った上で、更に追い打ちをかけるように言葉を吐いた。