「何故そう言うんだい?人の命を粗末にしてきたことには何かしら理由があるとしても、自分の命まで粗末にすることはないだろう」


近藤が優しくそう言った時、初めて少女は表情を変えた。


激しく憎悪を含んだ、殺人鬼の顔に……。


人を殺す時でさえ無表情だったのに、何故その言葉で激しい殺気を感じるほどの怒りに歪んだ顔に変わるのか。


言葉には出さなくてもわかった。


“お前に私の何がわかる”


沖田が昨夜少女の瞳の奥に感じた隠された悲しい何かとは、正にこれの事だった。


彼女は誰も理解し得ないほどの悲しい過去に動かされて人を殺していたのだ。


「いや、すまない…。俺が立ち入っていいところではないな」


そろそろ空も暗くなってきた。


行燈に灯りをつけ、部屋の中は暖かく明るくなる。


しかし、少女の表情に寒気がして背筋が妙に気味が悪い。


……まるで亡霊か妖怪でも目にしているようだ。


「だが、理由は何にせよ…俺達は君の命を粗末にしたくない。君に生きて欲しいんだ」


この年ならまだ残り長い命のうちに、償いだって人として生まれ変わることだってできる。


嫁いで幸せになることもちゃんとできるはずだ。