幕末の雪

「昨日の奴らも殺す気で襲ったが?」


「……っ、ころ…してねえんだし、特別に許す」


普段の土方からは考えられない曖昧な判断に、周りの幹部達はズルりと転けそうなほど呆気にとられた。


生かすためとは言えあまりにも中省略しすぎではないか…。


土方がこういったのを苦手なのは知っていたが、雑すぎだとため息をついた。


それからは、少女も黙り込んでしまって一時解散となった。


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数刻後、同じ部屋に同様に集まった幹部達は、同様に真ん中に正座する少女を見た。


今から昼のうちに近藤、土方、山南達で話し合った少女への処遇が言い渡される。


少女はそれを知ってか知らずか、堂々とした面持ちで近藤を見据えていた。


「君の処遇は……刀を取り上げた上で新撰組の屯所内を出ることを禁ずる。しばらくは監視付きで過ごしてもらう」


「それなら殺せ」


間髪入れずに少女は返す。


生かすにしても、幕府側の人間が被害者にいないと言え立派な殺人犯だ。


昨日沖田らに襲いかかったのを見ると、無差別殺人であるわけだし、もしかしたら町人だって被害にあっていたかもしれない。


それを考慮に入れた上で最も良い処遇にしたのに、何故少女は殺せというのか。


理解できる者はもちろんいるはずもない。


ただ少女の顔は変わらず無表情で、見据える瞳は光が灯っていない。


死を前にしても何も感じていないようだ。


一つの恐怖さえ…何も。