京の町ーーー。


辺り全てが黒く染まる丑三つ時。


月や星も全て覆い隠す雲は、まるでこれから起こるものさえも闇に紛れさせるようだった。


ザッ、ザッ……


砂を細かに蹴り散らしながら歩く音が、小さくながらも響く。


その音を聞きつけた正体もわからぬ人影は、腰に備えた刀に手を掛け無表情のまま気配を消し近づいた。


瞳は真っ暗で、何も映していないかのような…漆黒そのものだった。


「ふわあ…ねみぃな。ん…何者だ⁉︎」


欠伸をかいた男が慌てて振り返った時にはもう既に遅く……


眼前に迫った鋭い刃と、闇を映し出す鬼のような瞳が絶望だけを残し一瞬でその生命を切り裂いた。


ザシュッ……!


「ぎゃぁあああ!!!…っ」


バタン……


息絶えた屍を見下ろす人影を、一瞬雲の間から現れた月が月光で照らし出した。


その瞬間風が靡き、赤黒い色をした結われた長い髪が揺れた。


驚くことにその白い肌と美しい顔立ちはまさに女のものだった。


頬に伝う血の滴を拭うと、その女は無情な眼差しで刀を降り、刀についた血を飛ばす。


そしてまた闇へと紛れて行った。


とある雪の溶け切った春先のことーーー。


幕末という時代が動き出す……。