きっと理由なんて無いのだろうが、土方が関わると何か仕掛けたくなる性分なんだろう。


「陽も行く?」


行くと問いかけてくるのは、つまり悪戯の誘い。


沖田以外にそんな悪趣味をする人間がいるのは思えないが、本人は人の数倍それを面白がっている。


「遠慮する」


陽は考えるそぶりもなく、冷たく返答した。


下らない事をしたうえに、土方に説教まで喰らわなければならないとなると、誰もしたがるはずはない。


それを承知して何度も誘ってくる沖田は、正直陽から見ても意味のわからない男だった。


陽の返答を聞いても、そっかと笑顔を返すだけ。


しかし今は陽にとって誰よりも信頼しかけている人だ。


自分のことを誰より信じてくれたのは紛れもなく沖田だった。


如何にも何も考えていなさそうで、且つ自分勝手で戦闘好きな沖田が。と考えると不思議でならない。


だがそれ故に、普段の態度とは違った沖田を真面目と感じて本気と思えた。


変わった奴だが、芯は決して曲がっていなかった。


「じゃ、また後でね」


すっかり傷も塞がった手のひらを振って、沖田は廊下を行ってしまった。


午後の巡察後は沖田について甘味を食べに行くのは、もう週間づいている。


まだ給金を支給されていない陽へは、今は奢りだという沖田。


今日も沖田に念押しされるように誘いの言葉を受けてだが、奢りでなくなったとしても陽は行く気だった。


初めて甘味の味を知った日から、はまってしまったというのが一番合う表現だろう。