時はまた流れ、満開だった桜も遂に数輪を残し散ってしまう様な時期に入った。


前日に比べ確かに気温は上がり、日光の暖かさというのが心地良い。


春らしい風と浅葱のような色の空が、気分を高めてくれるのは京の人ならば趣深いと思うものだろう。


新撰組も例外でなく、稽古や巡察のない時間帯は庭や空を眺めるようにして部屋でくつろぐ者が多かった。


隊士達だけでなく、同じく沖田も障子を開け放し外を眺めながら寝転がっていた。


景色を唐突に一人の足が遮り、視界の中央で止まる。


「……」


「どうしたの?陽」


「土方が呼んでる、お前のこと」


今でも陽はというと相変わらずだった。隊長格というのは関係なしに、誰にでも敬語は使わない。


それ自体を今更気にかける者は、少なくとも幹部内にはいなかったが。


陽が「変わりたい」と気持ちを打ち明けた日から、陽が変わろうとしている事を分かっているから。


そうわかるほど、行動に現れていた。


だが変わったことといえば、陽が自ら他人の目の前に出るようになったという事。


今も土方に頼まれてではあるが、沖田の部屋の前へと自ら来た。


しかし一歩踏み出せずに、喋り出す機会を自分から得るにはまだ早い。


沖田と目が合っているのに口は微動だにしないままで、聞かれてやっと答えた様なものだ。


「面倒くさいなあ……」


重たそうに腰を上げて、沖田は何時もの悪戯を企む笑顔を見せた。