幕末の雪

斎藤の視線の先にいたのは、人影と互角に刀を交わらせる沖田だった。


「総司…すげぇ」


幹部の藤堂でさえ思わずそうもらすほどの戦いっぷりは、常人が対峙して簡単にできるものではなかった。


そして気のせいか、暗闇の中で沖田が笑っているように見えた二人。


今までの戦いの時にいつも笑っている沖田を見てきた故の幻覚かもしれない。


何故なら、まだその人影の事細かな姿が全く見えないからだ。


「さあ、そろそろ終わりにしよっか」


沖田が今までで一番の力を込めて刀を振り上げた時だった。


サアァァーーー……


風が吹き荒れると同時に、雲が流れその間から月が顔を出した。


「え…?」


振り上げた刀をそっと下ろした沖田。


月光に照らされた赤黒い色の長い髪を靡かせたその人は……


「女、の子…?」


沖田の言葉の通り、確かに女だった。


それを聞き姿を見た斎藤と藤堂は、驚きのあまり言葉を失った。


今までずっと男だと思っていたし、死体となった大柄な男達を見る限り、まさか女だったとは想定外どころではない。


しかもその幼い顔立ちは、二十歳にも遠く及ばない年齢を表すほどだ。


格好は男装をしているらしく袴姿だが、真っ白な肌といいその顔立ちはやはり女であろう。


だがただ一つ。


瞳だけは、その少女らしさも映さない鋭く真っ暗な物だった。