「お前を傷つけたのにか…?」


「そんなん忘れた!」


答えながら藤堂は一度抱きしめ直してから、そっと陽を解放した。


そのおかげで眩しい藤堂の笑顔が、陽の視界に映り込んだ。まるで太陽のようで、温かいと感じる笑顔。


笑わない陽にはどうということのなに表情のはずなのに、今は笑顔一つだけで安心できた。


「いいだろ、そんな事。俺ら皆お互い様、な?」


「……!」


飛びきりの笑顔を向けられて陽はそっと頷く。


お互い様という言葉を聞いて沢山の事を思った。


互いに悪かったとは言え、互いに相手の傷つけ方は違ったこと。傷つけた以外にも陽は今まで幾つも迷惑をかけてきたこと。更には人の温かさも教えてもらった。


借りが増えたと感じられるのに、平等と取ってくれる。


これが仲間なのか……。と、陽は驚きと少しの喜びを感じていた。


久方ぶりに感じた信じられている心臓の重みは、ずっしりとのしかかる。重苦しいようなのにそれが不思議と心地いい。


笑顔を見せる藤堂の後ろで、近藤、山南、永倉が同じく優しそうな笑顔を陽へ向けていた。


土方もため息を吐いた後で、僅かだが口角を上げて笑みを見せた。斎藤も陽と目が合うなり頷く。


(ここから、始まるんだな)


新撰組として、人斬りではなく…一人の仲間として。


陽が思ったその時、ただ一人言葉を交わさなかった原田と目が合った。


「「……」」


二人は目が合うなり、どうするべきかわからずそのまま固まった。


原田は罰の悪そうな顔をして、他の目が自分に向くなりやっとのように陽から目をそらして視線を落とした。


視線の先に映る畳のい草の一つ一つを見つめて冷たく言い放つ。


「俺は、まだお前を信用できねぇ。悪いが、自分に嘘ついてまで謝る気はない」


確かに信じたいと思っていないといえば嘘になる。だが、誰よりもまだ陽を受け入れていなかった。


昨日見た、い草に流れ落ちる藤堂の血。


本人が許していることなど今目の前で見ていた。それでも譲らず許すことのできない何かが引っ掛かっている。