幕末の雪

「俺も…!」


土方が情けない…と顔を背けると、藤堂も身を乗り出すようにして言った。


陽への思いが深い分、藤堂の思いも言葉にして伝えたいことが誰よりもあり、まとめられないせいで必死な顔をしている。


「陽に助けられて俺は今もこうして生きてる。なのに、飯一つ食えない、浅い傷で喚いて誤解一つ解けない……本当に…傷つけてばっかでごめん!」


拳を握りしめて震わせながら、藤堂は思い切り頭を下げた。


ぎゅっと目をつぶっているのは懸命に謝罪しているからではあったが、男として、また人間として情けなさすぎて陽と目が合わせられないのも理由だった。


「会ったばっかの時も、花見ん時も、三日前も昨日も今日までずっと!もっと…俺はお前に出来ることがあったはずなんだよ……!」


そんな事ないと、陽は言葉の代わりに思い出す。


今までずっと誰よりも積極的に話しかけてきたのは藤堂ではないか。


確かに最近では沖田と会話することが多かったが、一生懸命になっていると一番に感じたのは藤堂だった。


特別目立ったことはないにしても、それだけの積み重ねで“何もしていない”なんてことにはならない。


「俺もだ…!陽、悪かった!」


永倉、斎藤、近藤、山南とそれぞれが謝罪の意を込め頭を下げた。


一人一人の言葉を聞くたびに、陽は無意識に納得して行く。ああ、そうだったのか…と。


いくら陽でも土方が言ったように互いに非がある事はわかっているし、相手が綺麗事を言っているようにも思えなかった。


三日前に逃れるように部屋から出て行ったのとは違い、確かに一人一人が自分の言葉を選んでいるのがわかる。


少しかもしれないが、信じようとしてくれているのも微かに感じられる。


陽の心の鈍いせいでそれに気づくのが遅れたように、上手く相手の気持ちを汲むこともできないが。


だが確かに昨日とは、ついさっきまでとは違った。