幕末の雪

陽の言葉は、男達の耳にしっかりと入った。


沖田はそれを聞いて安心したように微笑んだ。


「ようやく聞けた」


血だらけの手のひらから刀を解放すると、陽は刀を沖田から遠ざけるように床に置いた。


腕に刺さってはおらず、出血は手のひらからだけだった。


血の出る右手を見て、沖田はまた笑う。


「ははっ、思ったより切れちゃったな…」


陽が不安そうに見ていることに気づき、大丈夫だと言って立ち上がった。


「山崎君に手当てして貰ってきます。皆さん、特に土方さん」


「……」


「陽に言うことがありますよね。ちゃんと伝えてくださいね」


笑顔を見せたまま部屋を出て行った沖田の背を見送り、土方はため息をついた。


沖田のおかげではあるが、散々やらかしておいていなくなる辺り勝手さはいつも通り見事だ。


誰から先に、という男らしくないことはしないがこの場に沖田がいないことが陽に影響しなければ良いが、とは思う。


初めに前に出たのは土方であった。


「俺がお前を一番苦しめた。……悪かった」


悪いとは思っているのだが、素直に頭を下げることが出来ず、それはぎこちなかった。


副長としての威厳でもあった。


頭を上げて陽を見ると、いつもと違う瞳と目が合う。


(そういえば、これだけまともに目ぇ合わせたことなかったな…)


陽の瞳にはずっと色がなかったのに、今は何処か不思議に気持ちが通じているように少しだけ色づいて見えた。


「俺が悪いところがあれば、お前にだって悪いところはあった。……だが俺は、全部お前が悪い風に押し付けた」


陽には目の前の土方が本当に自分に怒号を被せた人間なのか、信じられなかった。


果たして今自分は土方に謝られているのだろうか。現実なのかと、目と耳を疑う。