幕末の雪

トン……


沖田が切っ先を左の二の腕に当てると、陽は意識を取り戻したように、はっとした。


「おき……」


刺せない。そんな事をわかっていながらも、自分から言う方法もなく言葉に詰まる。


だが偶然にもそれに重なって、複数の足音が聞こえた。


廊下を駆ける足音は急ぎ足でこちらに近づいた。


「どうした土方さん!」


障子から姿を現すのと同時に、永倉は大声で尋ねた。


後ろから現れた原田、斎藤、藤堂、近藤、山南と順に息を整えると土方の視線の先を見た。


「これは、どーゆうこった…」


原田の言葉に息を飲む。


刀を腕に当てる沖田の先には、その刀の柄を握る陽の姿。だが、よくよく見ると覇気もない。


しかし一瞬で心を乱した男達は、それに気づかず部屋に踏み入る。


藤堂のように、また沖田も傷つけられると思った。


「何やってんだ!」


「総司!」


後ろから駆け寄ろうという男達に、沖田が肩をピクリと震わす。


だがそれを止めたのは意外な人物だった。


「てめえら!!!」


「「……!!」」


「……黙って見やがれ」


土方は視線を沖田たちから外さず言った。


妙に落ち着いた声であったのは、土方が陽の異変に気づいていたからだ。


「でもよ…!」


「歳、これは一体…」


藤堂の焦りに加勢し、近藤が尋ねると、土方は冷静に事を説明した。


説明を聞くなり、近藤たちは更に焦った表情で沖田たちを見直した。


「陽、どうしたの?力入れていいよ」


沖田の言葉に廊下でそれを見守る男達の拳に力が入る。