幕末の雪

藤堂が叫ぶのと共に、まるで何かが切れたかの様に人影は襲いかかってきた。


速い……!


暗闇の中では目で追うのがやっとだ。


ササッと砂が蹴られる音を頼りに、どこにいるかを辿り、風を切るほど速い刀の振り下ろしで刀を構えた。


カキンッ…!!!


次に狙われたのは藤堂だった。


一瞬藤堂は確かにそいつと目が合い、その奥に潜む氷のように冷たい暗闇に恐怖を感じた。


しかし逃げ腰になっている暇はなく、間髪入れずに次は藤堂から刀を振り下ろした。


一度刀を交わらせただけで藤堂も気づいたが、そいつは藤堂に比べても非力であり、予想通り藤堂の刀は受け止められることなくかわされた。


そのかわす速さというのは普通ではない。


再び刀を振り上げようとした時には、既に懐に入り込まれており、藤堂は死を覚悟した。


カキンッ!


「大丈夫か平助!」


「あれ、生きてる?」


思わず瞑ってしまった目を開くと、そこには自分の方を見る斎藤がいた。


まだ斎藤は抜刀していない。…というよりは、鞘に戻したという方が正しいか。


そのため、先ほどの金属音を不思議に思い首を傾げた藤堂に、斎藤は視線でそれを指した。