幕末の雪

「それなら、僕が信じたら君は信じてくれるの?」


震わすほどに唇を噛む陽が、ピクリと動きを止める。そして、その言葉を耳で受けしっかりと考えた。


口先だけなら何とでも言える。だから沖田は、行動で示そうと立ち上がった。


信じて欲しいと言いながらも、陽が新撰組を信じないことを仕方ながないと感じ、更に仲間を傷つけられることを恐れた。


そんな態度もきっと陽を不安にさせ、信頼をさせない要素になっていたのだろう。


「待ってて」


真剣な瞳でそっと笑みを浮かべ振り返った沖田。本気で自分を一つの存在として見ていることがわかる。


確かにこいつは、自分を見てくれているんだと。


それから陽はその場から動かず、沖田が戻るのを待った。


沖田が戻るまで数分いらずで、その足音は一つでなかった。


「おいっ、総司…!!てめえ何する気だ!」


「何でもありません。土方さんは部屋に戻っててください。それができないなら…」


言い争っているようだが、陽はその内容を考えるよりも先に利き手が反応した。


拳を軽く握りしめると、手のひらの血管が何かに反応するように一瞬浮き出て戻った。


「後ろで黙って見ててください」


勢い良く開けられた障子の向こうに、沖田の他に、怒りながら焦りの色を顔に浮かべる土方がいた。


土方の顔を見て陽が目を逸らすのと同時に、土方もばつが悪そうに顔を逸らす。


その時、陽の目に“あるもの”が映った。


「私の刀……」


沖田の手に握られた刀は、銀色の鞘と不思議な紋様がついた陽の愛刀であった。


それを取り戻すためだけに新撰組にいる陽の目の前に、簡単にそれを出すことの意味を沖田は理解しているのか。


だからこそ、土方も怒っているわけだが。


陽はそれを奪おうと立ち上がろうとするが、力が入らず尻餅を付くように座り込んだ。