陽が目を覚ました時、右手は包帯できつく巻かれており、右肩、左の二の腕あたりにも処置がされてあった。


とはいっても、昨晩の記憶はしっかりとある。


近くに刀がないあたりを見ると、以前の生活に戻る可能性も否めなそうだが、信頼できない人達と何かを成すつもりもなく好都合だ。


適当に刀を探し出し、早々に逃げればいいのだから。


目が覚めると同時に入ってきたのは沖田で、ずっと外にいたように思われる。


相変わらずの笑顔ではあるが、三日前のことや昨晩のことがあり、実際何を考えているかはわからない。


だが、笑顔を浮かべる沖田が手にする物を見て、陽は拒絶反応を起こした。


「これ、おかゆ」


お膳を枕元の近くに置こうとした時、陽はそっと一歩後ずさった。


「おかゆは嫌い?」


沖田の問いに、陽は鋭い視線で見つめ返すだけだった。


「……」


「でも、食べなきゃ死んじゃうよ」


尚睨み続ける陽の手を無理に引き、お膳の前に座らせた。


鍋の蓋を開け、茶碗によそったお米を冷ますと沖田はそれを掬って陽の口元へ運んだ。


「食べて」


陽の手が使えないことは陽も承知だが、陽が口を開かないのにはもっと重要で当然の理由があった。


きっと今なら、誰でもそれぐらい理解するだろう。


開かれないその口は、悔しそうに噛み締めて引き結ばれていた。


陽の表情を見て、沖田は笑顔をやめ真剣な眼差しで陽を見た。逸らされて合うことのない、陽の瞳を必死に。


そして茶碗らを一度お膳に戻し、口を開いた。


「僕は上手く言葉じゃ言えないけど、今君に言うべきなのは、…ありがとうだと思ってる」


ごめんねなら、もう何度も言ってきた。


そしてその度に、陽を苦しめたのだ。