幕末の雪

「平助!!!」


原田と永倉は藤堂に駆け寄り、両腕を掴んで陽から遠ざける。動くたびに畳にはポタポタと血が落ちた。


二人の視線は、血だらけの藤堂の腹部と苦しそうな顔を交互した後、陽を睨みつけた。


「くそっ…!」


「ちげっ、はな…せ!、よ、陽は……」


痛む腹部に無理をして声を出すが、二人は藤堂を担いで急ぎ足でその場を離れてしまった。


廊下を進む途中で、山崎の声が聞こえた。だが、少しずつ瞼が落ち声も遠くなっていく。


このままでは、また陽が悪者扱いになってしまう。


そうは思いながらも、遠くなる意識の中静かに目を閉じた。


一方、陽の部屋では状況を理解できずにいる幹部達を背に沖田が一歩前に出た。


「本当は、こういう事したくなかったんだけど」


沖田はそっと抜刀して陽に近づく。


それに合わせ陽も刀を構えるが、後ろに複数いる幹部を前に無駄な抵抗は止しとしたらしい。


刀を下ろし沖田を見上げた。


「仲間を傷つける奴は、いらないんだよね」


頭によぎるのは二日前の自分の姿。


仲間を傷つける奴はいらないと言いながら、これほど陽を傷つけた自分は何なのか。


刀を振り上げるとき、微かに沖田は口を開いた。


「……ごめんね」


どうして最後までたった一言、そんな言葉しか吐けないのだろうか。


そして簡単に今までの全部が消え去って行く。全て、全てが……。


ーーーー


昨年のとある夜に、自身が手にかけた親しい人の姿。


その人のたくましく厚い体は、酒の回った様子を伺わせないほど最後まで武士らしかった。


『沖田。そのような程度で儂を殺せるか!最後の教えだ!本気で来い!』