幕末の雪

「陽!!!」


勢い良く襖を開けた先には、壁に寄りかかり俯くように座る陽の姿があった。


暗闇の中の陽は異様な雰囲気を放っており、怨念に包まれたかのように真っ黒な物体に見えた。


考えるより先に、藤堂は陽に駆け寄った。


首に手を添えると脈はあり、体温も高くはない。痩せているかはわからないが、息があるそれだけで安心した。


「よかった……」


首に当てた手を下ろし、藤堂は眉を下げて唇を噛んだ。


「陽、ごめん。俺が間違ってた。また作ってよ、今度は最後まで……」


“食うから”


その言葉の先を封じられたのは、赤く光る瞳と目が合ったからではなく……。


陽の目が赤く見えるほどの、月に反射された鮮血のせいだった。


「え……」


血が吹き出る先は、自らの腹で、言葉を失った数秒後痛みが体を襲った。


「うぅ……うあああぁ!!!」


藤堂は畳に転がり込み生温かい血の流れる腹に手を当てた。傷は浅いようだが、陽が自分へと刃を向ける姿が心に深い傷をつける。


「…んで、だ…」


何でだよ。


「近寄るな」


陽が怒るのも、近づかれることを嫌に思うのも、斬りたくなることだってわかるのに……。


この至近距離で、これほど浅い傷しかつけなかったのはどうしてだ。


心の中では、本当は新撰組に頼りたかったのではないか。だから、藤堂を殺せなかった。


だから今も……呻く藤堂を見て、刀を振り上げない。


「よ、陽……」


「どうした!!」


叫び声を聞き駆けつけたのは、幹部達で全員が逃れようのないその場を目にした。


血を流し横たわる藤堂のその横で、血の滴る刀を持つのは部屋の主である陽だった。