幕末の雪

「最近あの二人仲良いよな」


二人を見て、藤堂は隣にいた斎藤に言った。


今も巡察が終わったばかりに、羽織を脱いで甘味処へと行こうとしている。


陽も喜んでいるわけではなさそうだが、嫌そうなそぶりもない。


関係が進展したとはまだ言い難いが、沖田ほど陽と言葉を交わす人間も他にはいない。


沖田はまだ陽が甘味好きである事を言っていないため、まだ陽がマシに返答してくれることが同じ組だからという推測にとどめていた。


「さあな…。といっても、まだ鷹尾が心を開いているとは言えない」


「ま、総司自体が強引って事もあるんだけどさ。俺も普通に陽と話したいな」


陽の手首を掴み、急ごうと後ろを振り返りながら強引に先を歩く沖田。


陽は無表情のまま沖田の手を振りほどくが、少し間を空けて後ろをついて行く。


きっと他の人間なら行く先の途中で、嫌がられて逃げられてしまうだろうと、陽を誘う人間はいない。


それに変わらず瞳は暗いままで、自分から話しかけてくる様子はない。


きっと陽が心を開く時には自分の全てを話すことはともかく、笑顔ぐらいは見せてくれるんじゃないかと、まだ心の距離は感じている。


それは沖田も同様だった。


廊下を曲がりその姿が見えなくなるまで、藤堂は後ろ姿を見つめていた。


「だが、確実にあいつも俺達に気を許しつつある。それは事実だろう」


落ち着いた斎藤の声が庭先に消え、言葉を聞かず声の音だけを頭で処理した。


そしてついに、事件が起こるーーー。