幕末の雪

どこに出かけるのかは知らない。


沖田は何時もとは違う楽しそうな笑みを浮かべ、陽を連れ出した。


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町を暫く歩いて辿り着いたのは甘味処。店の近くを歩いている時から、甘い香りが漂っていた。


まさかとは思ったが、沖田は躊躇なく店へと入って行った。


「ほら、陽も」


席についた後も、陽は落ち着かない様子で店内を見回していた。


普段はあんなに冷静なのに甘味処に来ただけで幼い少女の様になって、それが可愛く沖田は頬を緩ませた。


「落ち着かない?」


「初めて、だから…」


「甘味処に来るのが?」


陽は頷いた。


店内だとどこにいても常に甘い香りが鼻を掠め、神経に呼びかけられるようで緊張がほぐれる。


この甘い匂いが陽は好きらしい。


何時ものように無愛想さが足りない陽を見て、沖田は甘味効果だな…と考える。


沖田も同じように甘味には目がなく、いつもと性格が変わってしまうのを感じていた。


「抹茶とみたらし団子、それからわらび餅を二人分」


手際良く注文する沖田。


さすが常連と言ったところで、伊達に給金の半分を費やしているわけではなく、今では値段の割引も利くほどだ。


それは沖田の顔立ちも関係があった。甘味の前では恐ろしく優しくなる沖田は、甘味処で働く娘達の評判が良い。


ただ通うだけで割引してもらえるほど、経営は甘くないのだ。


「甘味を食べた事はある?」


「ちょっとなら」


人を斬る生活をしていた陽なら、食べたことがほとんどないのもわかる。


抹茶、団子、餅と順番に運ばれてきて、陽は初めてみるかのように、奇妙な物を見る目で見ていた。


「ふふっ。陽、睨みすぎだよ」


「別に睨んでない」


甘味を見ていたそのままの目で、沖田を睨む。