幕末の雪

それから暫く待ったが、それらしき人影が現れそうな気配はなく、沖田はあくびをこぼした。


「ねえ平助。今日は来ないんじゃない?」


「だな。一君にも言って今日は引き上げるか」


二人は張り詰めていた気を緩め、消していた気配も自然に戻した。


そして立ち上がった時だった。


「くっそー。足が痺れて…」


「来た!」


カキンッ…!!


某然とする藤堂には一瞬何が起きたかわからなかったが、沖田は“そいつ”の微量に感じた気配に反応して、刀を抜いていた。


だが、既に目前に人影は迫っており、間一髪というところで敵の刀を防いだ。


生憎の曇り空で敵の姿は目が慣れているとは言え、影でしか見えない。


だが、殺人犯というには、想像とは違い背が小さいように見える。


その人影は沖田から軽い身のこなしで後ろに逸れ、再び刀を構えた。


遠くで見張っていた山崎と、金属音を聞いた斎藤は戦いの顔に変わり即座に駆けつける。