幕末の雪

「嫌でも慣れる。兎に角これは隊務の一つだと思って取り組め、いいな」


「……」


黙りこくった陽は頷きもせず、視線をそらした。


(土方さん怒らせた)


その様子を沖田は内心くすくすと笑いながら見ていた。


後にこの事が原因となり、新撰組で大事件が起こることも知らずにーーー。


「それと今日から一番隊と稽古、巡察だ。前に言ったとおり総司がお前の隊を仕切ってるから何でも聞け」


昼餉の際に言ったように、今日は一番隊は巡察がないが、巡察はほとんど毎日のようにある。


新撰組に入ったばかりの陽にとって沖田が組長である一番隊は、あらゆる面で少し厳しいかもしれない。


沖田の性格はもちろん、様々なことに振り回されるだろう。


陽の態度を見兼ねて決めたが、今となっては少し可哀想だと思う。


話は終わったらしく、陽は風呂敷を抱えて部屋を出て行った。その後ろを着いて行くように沖田も出て行く。


「改めてよろしくね。…陽、の方がいい?」


「何でもいい」


「じゃあ陽でいいか。よかったね、土方さんの自腹で素敵な物買ってもらえて」


正直陽には理解できない。


それは喜ぶべきなのだろうか。しかも、どうして沖田が自分よりもずっと幸せそうな顔をしているのか。


「土方さんのお金で自分の物を買えるって“いい事”なんだよ。覚えておいてね」


絶対に間違っている。


沖田と土方の関係性が見えてきたが、敢えて陽はその事を覚えておいた。無理に当番を押し付けられた分、少し苛立っていた。


「そうだ。荷物を置いたら出かけるから、刀だけ持ってきて」