幕末の雪

悪巧みをしているのが表情に出ており、すれ違った斎藤は思わず足を止めた。


(何だこの異様なまでの笑顔は…。喜心を通り越して邪心すら見えるが…)


目がしっかりと開いており、閉じたままの口が猫の口のような笑い方をしている。


この顔は何かよからぬことを考えている時と斎藤の中では決まっていて、警戒はするもののその矛先が自分に向いたことは未だない。


「総司、副長の部屋に行くんだろう。その緩んだ頬は引き締めておけ」


「はいはい」


歩いて行った斎藤を見送り、沖田は土方の部屋へと向かった。


部屋の前に行くと、中から人の気配が感じられた。どうやら二人は既にいるらしい。


(なんだ。つまんない)


部屋の中では正座した土方と陽が向かい合っていて、外とは違い居づらい空気だった。


「遅いぞ総司」


土方が沖田を睨むが、首を傾げてわざとらしく考えるそぶりをして見せる。


「おかしいな〜。土方さんの発句を読みに急いで来たはずなんだけどな」


怪しく光った沖田の目。


本人を前にしては先ほどよりずっと笑顔も悪そうになる。


「総司!お前な…」


「梅の花」


ピクリ


土方の声を遮った言葉に、土方の眉は僅かに反応をみせた。


陽は何のことか知らないが、全く気にしていない様子だった。


「言いふらしてもいいんですよ?」


勝ち誇った笑顔に、土方もぎこちない怒りの含んだ笑顔を見せた。


「は、早かったな。今ちょうど……あ、つ、まった、ところ、だ」


土方にしては怒りを抑えられた方だ。


最後の方は耐えられず途切れ途切れだったが、怒りっぽい性格からすればまだ上出来な方とも言える。