「平助、箸止まってんぞ」


原田の声でハッとした。陽の事を考え箸が止まっていたことに気づかなかった。


考え事か?と笑顔をこぼす原田の顔を見ると珍しく、綺麗な顔だと思った。


藤堂が本心から思ったというよりは、女受けしそうな色気も男気も備えているという、女視点からした考えだ。


きっと陽もこんな男を好きになるのだろうか。原田がまだ陽を認めていないとしたら、それはないかもしれない。


いや、それでも新撰組には遊女も頬を染めるような美男ばかりがいるわけだ。


(それじゃあ俺は……。って、俺何考えてんだ!)


頭の中で陽が溢れかえる。それよりも、どうして今自分は陽の恋路の事を考えたんだ。


一人百面相をする感情豊かな奴(馬鹿)だと、藤堂の両隣に座る永倉と原田は笑い箸を伸ばした。


「魚いただき!」


「俺も一本」


永倉と原田は藤堂の魚を一匹ずつ横取りして、美味しそうに頬張ってご飯をかきこんだ。


「ちょっと!俺の魚は!?」


それに気づいたのは藤堂の皿の上から魚が無くなった後で、二人はまた楽しそうに笑った。


「ふぅ、食った食った」


「んじゃ左之行こうぜ」


「おう」


「待って!俺の魚は!?ねえ、俺の魚……僕泣いちゃう」


出て行く二人の背にふざけて鳴き真似をして見るものの、勿論振り返ることはなかった。


((やっぱ平助って馬鹿だよな))


ーーーー


昼餉を食べ終えた沖田は自室に戻り、暫く暇を潰した。


土方は後で来いと言ったが明確な時間はわかっていないし、早く行き過ぎても暇なだけだろう。


呼ばれてわざわざ急いで行くのも嫌だった。


「あ、でも…いっか」


発句集の存在を思い出し、沖田は重そうに腰を上げた。