花見の件から数日が経ち、屯所内は平穏を保っていた。


特に大した問題もなくいつも通りの日常と言ったところだ。


とは言っても新撰組にとっての日常とは、負傷者無しに敵を捕らえる事を含めている。


もちろん斬るし、普段の稽古とはそのためにある。


だがそれにしても平穏と言えるのは、やはり陽が藤堂を助けたあの一件が関係していた。


幹部達の陽を見る目が変わり、何処かピリピリとした空気が、全くとは言わないがほとんどなくなってしまった。


土方は陽を放置したことを悔いて山崎に監視を止めさせ、原田も分かりやすく睨みつける事などはやめた。


陽自身もそれは感じている。


藤堂の一件は結果的に、陽と新撰組の双方にいい影響をもたらした。


初めて人を守るために敵を斬った事を、嬉しく思えたのは事実だ。


まだ人間らしさが芽生えているということも、今後の成長に期待できた。過去に通り過ぎてきたものをもう一度学び、変わることができると思った。


それに瞬時に行動したにも関わらず、陽が刀を刺したのは躊躇なく相手の心臓だった。


無意識のうちに、仲間意識……とまではいかないが新撰組の捉え方も変わってきているらしい。


こんな風になるとは思っていなかった陽は、最近は冷静さを保てない事が多かった。


結局一人でも人斬りを続けられれば、それでいいと思っていた。


だが新撰組にいると、そうじゃない気がしてならない。


お前の生き方は違う。そう教えられている気がした。


冷静さを欠いても表情だけはいつも通り無表情で、陽が一人落ち着かないでいることには誰も気づかなかった。