いくつかの情報を瞬時に判断する。


(捨てられたのか?)


その時、激しい金属音が耳に響く。


『平助!!!』


放っておけば死んでいく。それだけだ。自分には関係ないだろう。


近くで戦う新撰組達の声が聞こえても、陽の頭は至って落ち着いていた。


(また人斬りに戻れるんだ)


だが、気づけば藤堂と刀を振り下ろす男の間に入り、無心で刀を突き刺していた。


忘れもしない人を斬る感覚。


違う……そうじゃない。と、陽は自身の心に何か呼びかけられるのを感じた。


初めて味わった、人の命を守る感覚。あの日守れなかった命の代わりに、成長した私が誰かの命を守ったのだ。


また誰かに、大切な人を奪われずに済む。もう誰にも……。


だけれど少し幻覚だったようで、振り返った先にいたのは大切な人ではなかった。


(間抜けな顔をしやがって)


それでも生きている。


日々憂鬱になる暮らしの中、うっとおしく喋りかけてきた藤堂。嫌いだったが、口を開いたのは陽の方だった。


『死んでないな』


死体を処理し、真っ暗な屯所への道を歩く男達。


そしてその後ろを一人歩く陽は真っ暗な空を見上げる。


仇を取るために人を殺せと教えられたが、自分にとって大切な人というのは守るべきではないか。


あの日から人殺しを続けてきた自身が、人を守ったと知れば、あの人はどんな顔をするのか。


陽が思うのは、新撰組ではなかった。


頭の中を陽で埋める新撰組の幹部達と陽が心を通わせるのは、まだまだ先になりそうだ。