幕末の雪

人の気配の少ない路地裏で浪士を装った斎藤はごく自然に見えるように壁に寄りかかりその時を待った。


様子を近くの建物の陰から伺う沖田と藤堂。


沖田は羨ましそうに目を細くしながら、ブツブツと口を開いた。


「あーあ…本当なら僕が囮役で、そもそもあの案は僕が…ごにょごにょ」


「うるせぇ総司。寄ってこねえだろうが犯人が」


藤堂のやや高めの声が小さく響く。


沖田よりも自分の声の方が大きい事に気づいておらず、更に口を開こうとした時だった。


「何?平助」


死んだような目がギラリと光り、藤堂は沖田の表情のあまりの恐ろしさに背筋がゾクりと震え上がる。


いや、何でもない…と口ごもったまま、藤堂は慌てて何度も頷いた。


(何をしているんだ平助は…)


重要な任務であるというのに、藤堂の声が聞こえた斎藤はため息をこぼしながらその方を見た。


すると、そこには激しく頷く藤堂と殺気を飛ばす沖田がいたため見ないふりをした。


沖田を怒らせるとは馬鹿なやつだ。