あれからもう何日が経つのかな…
あのとき私の中の時計は壊れてしまった
もう動くこともないのだろう






「え!?夏休みに2人で海!?行きたい!!」

「空ならそういうと思って。泊まりだから親に行っとけよ」
と、と、と、と、泊まり!?
「お泊まり…」
「なーに、顔赤くしてんだよ」
「ば、ば、ば、ばか!してない!」
私達はもうすぐで付き合って8ヵ月
初めて翔太と行く海
初めて翔太とお泊まり
初めて翔太と…
何もかもが楽しみすぎて浮かれたまま迎えた当日
ドキドキ
まだ約束の時間まで10分もある
早く来すぎたかな…
楽しみにしすぎてろくに眠れなかったのに早く起きてしまった
水着の試着会も何度も行ったし
日焼け止めも入念に塗ってきた

翔太、ちゃんと起きてるかな…

ん〜〜遅い!!
5分前行動必須!!!

私はいてもたってもいられなくなり、翔太の家の方向へと少しだけ行ってみることにした

交差点の方に出てみると何やらざわざわとしていた
「救急車呼べ!早く!」
「大丈夫か!?」
誰か、轢かれたのかな?
翔太?まさか。そんななわけないよね
もう1歩足を踏み出した時私は言葉を失った
それは、転がっていた靴が翔太のものだったから
その日、その時から私の時計は壊れたんだ

「うっ…翔太ぁ…」
「なんでよぉ」
「…帰ってきてよ」
「会いたいよ…うっ…」

あれから1ヶ月経ったけれど毎日毎日涙が止まらなかった
今日だって泣いてただ1日を終えていくんだと思っていた

「ごめんなさいっ…翔太ぁ…」
「おねがいっだから…ひっく…帰ってきてよ…」
「うっ…うぅ…」
「ただいま」
「…」
「無視してんじゃねーよ!!!」
空耳?
何年も聞いてなかったかのように懐かしい愛おしい彼の声
「しょ…うた?」
「ただいま。空」
ゆっくりゆっくりと振り向くと
そこには
「翔太!?」
事故にあって亡くなったはずの翔太がいました
「な、な、な、な、な、なんでいるの!?」
「お前が会いたい会いたい言うから神様に頼んで帰ってきてやったんだろーが!!」
「いや、いや、本当に帰ってくるやつがおるかー!!」
「せっかく帰ってきてやってその言い草はねーだろ!」
「もうちょっと登場の仕方ってもんがあるでしょーが!!!」
「精一杯考えてこれだったんだよ!!!」
「…」
「久々に会えたのに喧嘩なんてやめよーぜ」
「…うん」
「なんでまた泣くんだよ」
あたりまえでしょう
「本当に翔太なの?」
「翔太だよ。空の大好きな翔太」
「抱きついてもいい??」
「ほら、こいよ」
両手を広げてくれる翔太
私は全力でそこに飛び込んだ
「翔太だぁ…」
ちゃんと温もりがある…
心臓の音は聞こえないけどちゃんと触れることが出来る
「私、今幽霊とハグしてるんだ」
「ムードねえな!!」
プッ
思わず2人で吹き出した
「やっと笑ったな」
そう言われれば、翔太が亡くなってから1度も笑ってなかったんだ
「な、なんで知ってるの!?」
「俺、空の隣でずっと見てたからな」
「空が泣いてばっかいるから神様がここに来るチャンスくれたんだよ」
神様…ありがとうございます
「ずっとずっと会いたかった」
「俺もだよ。待たせて悪かったな」
「ほんとだよバーカ」
私達は久々にキスをした
幽霊とキスなんて可笑しくて笑っちゃう

「いつまで、いられるの?」
「んー?神様の気分じゃね?」
そっか…
「空?何してんの?」
「ん?祈ってんの翔太がずっとずっとここにいてくれますようにって」
「そらー」
「ん?」
「どっか行くか?」
どっか…?
翔太の言葉に思わずポカーンとした
「いや、デートとかさ」
デート
「翔太、外に出られるの?」
「まあ、俺の姿は他の人には見えないけどな」
「行く!デート行く!」
満面の笑みを浮かべる翔太
ほんとうにほんとうに大切でどうしようもなく愛おしい人
「うっわ〜人全然いねえな」
「だって今お盆だよ?」
私達はあの日2人で行くことの出来なかった海へ来た
お盆だから泳ぐことは出来ないけど
翔太となら眺めるだけでも幸せ
「なあ、空!!」
「なに?」
振り返ると子供のように砂遊びをしている翔太が手招きをしていた
「一緒に城作ろーぜ!」
「うんっ!!」
翔太といると楽しくて我を忘れてはしゃいでしまう
「翔太!崩さないでよ?」
「お前こそ不器用だろーが」
「ていうか、なんで幽霊なのにものに触れれるの?神様のお許し?」
「あー、残りの時間この手で空をいっぱい愛してこいってことじゃね?」
「そっか…」
神様、本当にありがとうございます
「君?1人かい?」
急な声にびっくりし振り返ると、ゴミ拾いをしている様子のおじいさんがいた
「え?」
「いやあ、遠くから君の姿が見えてな。この時期に海でしかも1人で砂遊びなんてしてるもんだから心配になってな」
1人…じゃないよ?
「親御さんと来たのかい?」
『俺の姿は他の人には見えないけどな』
ふいに翔太の言葉を思い出した
振り返ると聞こえてるのに聞こえてないふりをしているのか寂しそうな顔をして砂で白を作っていた
「そ、そうなんです。お母さんが今、飲み物買いに行ってて、でももう帰ります…」
「そうかい。そうかい。お母さんと来てたのか。気をつけてな」
「…はい」
私はおじいさんに背を向け歩き出した
悔しかった
泣きたくなった
言葉では表せない感情がフツフツと湧き上がってきた
私は、無言で家まで帰りベッドに思いっきりダイブした
無言で歩いてる間、翔太もずっと無言で後ろについて来た
「空…ごめんな」
なんで?なんで翔太があやまるの?
そう言葉にしたかったけど言えなくて
ただ、頭を横に振る事しか出来なかった
「こんな、余計悲しませてるんなら帰ってこなかった方が良かったのかもな」
その言葉に私はいてもたっても居られなくなりベッドから思いっきり体を起こした
「バカ!!!なんでそんな事言うの!?帰ってきてくれてよかったよ…
私、翔太が帰ってきてくれなかったら一生立ち直れなかったと思う
翔太に自分から会いに行こうとしてたかもしれない」
そう。私は何度か死のうと思った
でも、頭では思っていても体が動かなくて
本当は怖くて出来なかった
自分はどこまで弱いんだってつくづく思い知らされた
「翔太が、大好き…」
「空、俺もだよ。だから会いに来た」
翔太は優しく私にキスをした
何度も、何度も
夢の中にいるようなふわふわとして
溶けてしまいそうな
そのまま私は翔太に押し倒された
「空。怖い?」
「今さらそんなこと聞かないでよ…」
恥ずかしさに耐えれず私は手で顔を覆った
「顔、見して?」
翔太の甘いささやきに手を退けると おでこにキスをされた
「空、愛してる」
「翔太。私もだよ」
翔太との初めては優しい痛みだった
このまま離れたくなくてずっと裸でベッドの中で抱き合って朝まで過ごした
神様…どうか翔太を連れていかないで

「…ら。そーら!」
「ん…ふぅ…」
「そんな朝からエロイ声出して誘ってんの」
その言葉に飛び起きた
「しょ、しょ、しょ、翔太!?」
「いつまで寝てんだよ空。そんなに疲れた?あ、それても気持ちよすぎて…」
「ばかっ!!!」
恥ずかしいよぉ…
「そーらー?」
下からお母さんの声が聞こえた
やばい!
いま裸だ!部屋に上がってこられたら…
「なにー?」
大声で答える
「そろそろ降りて来なさい!」
「はーい。今行くー」
私は、すぐにジャージに着替えた
「翔太ごめんね。ここで待っててもらえるかな」
「おう」
ダダダダダダダダッ
「おはよう!お母さん」
「空。元気になったみたいね」
あっ。そっか…翔太がいなくなってからまともにかいわなんてしなかったっけ
「昨日、どっかから帰ってきてすぐに寝ちゃったでしょ。シャワーでも浴びてきたら?」
「あ、うん…」