ーside浩人ー
分かってる。お兄さんだから。
そんな無邪気な笑顔も、話し方も、お兄さんだから気を許している。
分かってる、けど。
嫌なものは嫌。
自分だけを見ればいいのに、と思ってしまう。
他の人に見せて、俺には見せない表情があるなんて。
もっと夢中になって、全部さらけ出してほしい。
際限ない願望が、じわじわと心の中を占めていく。
見せないように内に秘めているはずなのに、不意に漏れてしまう。
彼女が無防備だから。
自分の中の黒い部分が顔をのぞかせる。
「私、浩人さん以外は見てないですよ」
さらりとそう言ってのける彼女は、思っていたよりも俺に傾いているのかもしれない。
時々見せる甘えは、その表れだと思う。
無意識に翻弄してくるのは、反則だけど。
離したくない、と思っているのが伝わっているのか。
そう思うような言葉を紡がれて、戸惑った。
欲しがりすぎて、手に入ってみたら不安で仕方ない。
誰か他の人を好きになる可能性はゼロではない。
彼女にはまだ出会いがたくさんある。
預けるように寄せられた体に、胸を突かれたような気持ちになった。
今は、俺しか見えてない。
大切なものを腕の中に抱きしめた。

