「じゃあ、風呂行ってくるかな-」
そう言ってお兄ちゃんが立ち上がる。
え。この状況で二人になるの…?ちょっと無理そうなんだけど。
「真琴、明日は何時から部活?」
「明日も午後からです…」
「じゃ、お先に」
「どうぞ…」
音を立てて扉が閉まり、それと同時に浩人さんが立ち上がったのが椅子の動く音で分かった。
近づく足音に、心拍数があがる。
「明日は何時に起こしましょうか?」
発せられた言葉は執事の口調。
なぜだか安堵して、小さく息をつく。
「今日と同じくらいでお願いします」
斜め後ろに立った浩人さんを顔だけで振り向く。
思ったよりも近くにあった顔に驚いて、その隙にあごを引き寄せられた。
そして少し強引に、唇が重ねられた。
「ん……っ…」
「お兄さんだとしても、むかつくもんだね」
数センチだけ離れた距離で、浩人さんが呟く。
寄せられた眉間は、かなり珍しい。
あまり見せることのない、強い男の人の表情。
でも、その言葉はつまり…
「妬きもち…?」
「そう、妬きもち」
即答で返されて、訳がわからなくなる。
「実の兄ですよ?」
「知ってるよ」
「私が告白された時だって、そんな素振りなかったのに…」
「真琴がその人に懐いてなさそうだったから、それは良かったんだよ」
「懐く?」
首をひねる私に、浩人さんは苦笑いを浮かべる。
「俺よりも心開いてる相手がいるのが、いやなんだ。俺だけ見てればいいのに」
浩人さんの目は本気だ。見つめる瞳は嘘を言っているようには見えない。

