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「謙也様、真琴様、お風呂の用意ができておりますが、いかがいたしますか?」
浩人さんにそう声をかけられて、初めて時計を見る。
夕食を終えてそのままお兄ちゃんとぐだぐだと喋っていたら、思ったよりも時間が過ぎていて驚いた。
「もうこんな時間か…」
お兄ちゃんも同じだったのか、そう言いながらのびをする。
「お前、明日部活は?先に入るか?」
「明日は午後からだから、まだ大丈夫」
「んじゃあ、俺行ってくるわ」
「はーい」
「かしこまりました」
立ち上がって部屋を出て行くお兄ちゃんを見送って、自分ものびをする。
長い間かたまっていたからか、肩の骨が音を立てた。
「明日、午後からなんだ」
「…はい、そうです」
浩人さんの突然の口調と、言われた内容に戸惑って,思わず返事が短くなる。
なんか、やっぱり変。妙に無表情。
じっと見つめられてる。
その目は何か訴えるような、何か言いたげな様子。
大きな犬みたい…って言ったら失礼かもしれないけど。
「浩人さん…?」
「ん?」
呼べば、顔を寄せて、鼻にかかるような甘い声が答える。
甘い、甘やかすような声。
「なにかあったんですか?」
「なにかあったと思う?」
質問返し。
こういうときの浩人さんは、何を考えてるのか分からない。
「私、何かしましたか?」
そう問えば、浩人さんは顔を離す。
「お兄さんがいて、うれしそうだね」
「え…」
それは、どういうこと…。
聞こうとした言葉は、伸びてきた手にクシャリと頭をなでられて続かなかった。

