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「それで、何を隠してるの?」
ノックしたのは井筒さんで、おじい様からの伝言を伝えられた。
話を終えて戻ると、浩人さんが首をひねる。
私が座っていたイスに腰掛けている。
「やっぱり全部分かってるんじゃ…」
「なんか様子がおかしいな、と思うくらいだよ」
疑う私に、浩人さんは笑う。
「何を隠してるのかまでは分からないよ。カマかけみたいな部分もあったし」
「カマかけって…。ずるいです」
「大人はずるいものだよ」
…ずるい。
不敵に笑って私の手を取るから、抗えない。
引き寄せられて腰のあたりに腕が回る。
少し下から見上げられることに、心臓が音を立てている。
「で、なにがあったの?」
再びの問いかけに、少し迷ってから、その目を見つめる。
「告白、されたんです。同級生に」
「それは妬けるね」
「断りました」
「そうでなきゃ困るよ」
浩人さんの瞳は揺るがない。
ほっと息をついた。
不安にさせたくない、という私の心配はどうやら杞憂に終わったようだ。
「それで?」
「…?それだけですよ」
やっぱり、報告するほどのことでもないような気がする。
本当に「それで?」っていう話。
「泣きそうな顔をしてたのは?」
「そんな顔、してません…」
思い当たる節がない。
「帰ってきてすぐ」
浩人さんが目を細める。
「俺を見て、泣きそうな顔をしたよ」
言われて、思い当たった。
それは多分、安堵だ。
迎えてくれた浩人さんがいつも通りで、安心して、それが愛しかった。
大事で、かけがえのない人。
この人に拒絶されたら…そんな不安から解放された気の緩みだった。
「浩人さんに会ったから、です」
「泣きそうになった理由?」
「安心したんです」
「何を不安になってたの」
その質問には答えず、いつもと違う身長差で浩人さんを抱きしめた。
この腕で抱きしめられる
その腕に抱きしめられる
それが出来る限り、きっと私の不安も杞憂に終わる。

